伊藤恵さんのベートーヴェン

フェニックスホールで開催された伊藤恵さんのリサイタルに行ってきました。
演奏後のサイン会にて
「モティーフの演奏の形を決めるのには、とてもお時間をかけていらっしゃるのですか?」と尋ねたところ
「もちろん、たくさん時間をかけます。どうしてそう思われたの?」
「感性やインスピレーションだけでは、あのように説得力のある演奏にはならないかと思い…。」
「でも最後はインスピレーションが大事ですよ。解説のような演奏は聴きたくないですからね。うふふ。」とウィットに富んだ返答をして下さいました。
故朝比奈隆さんの誕生日に当たる日のリサイタルでしたので朝比奈さんとの思い出を交えつつ「歳を重ねても悟りとは違う、瑞々しさを大切にしたいと」おっしゃっていましたが、サインをされる方一人一人との会話は、丁寧な語り口調で優しさとユーモアがあり、でもフレッシュさも持ち合わせている伊藤恵さんの演奏と同じようでした。
学生時代初めて伊藤恵さんの師であるライグラフの演奏を聴いた時「ピアノは朗々と歌わなくても良い、大いに語って良いのだ」と感激したことを思い出します。
水の中に石を投げ込むと簡単に波紋が広がりますが、お二方ともどのような波紋にするか想像しながら丁寧に指先を水に落とし、その波紋がジワジワと観客の心に広がっていく、そのような演奏でした。